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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)657号 判決 1957年12月10日

控訴人 真田万太郎

被控訴人 国

訴訟代理人 今井文雄 外一名

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は原判決を取り消す。本件を奈良地方裁判所に差し戻す旨の判決を求め被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否は控訴人において控訴人は世界永遠の平和、社会公共福祉を目的として「徳に導くの栞」なる著名冊子を執筆発刊し勤倹力行に富み決して準禁治産宣告を受くべき者ではないのに訴訟妨害の目的で準禁治産宣告せられで、保佳人死亡し誠実な保佐人を得難いため多大の損失を蒙りつつあるので準禁治産宣告取消の申請手続準備中であるが、本件訴訟の目的である桜井市大字倉橋二九七九番地通称平尾山、山林一反八畝一歩を前保佐人松田長蔵の孫より買受けたと称して訴外久保田吉一が六十年生の杉檜を伐採しつつあることは顕著な事実で控訴人の損害測り知れないものがあるので控訴人は民事訴訟法第五三条第五四条に依り、本訴を提起し右実情及び本訴における控訴人勝訴の理由極めて明白なことを繰返し詳細に陳述したのに原裁判所は保佐人の同意がないことを理由に判決を以て控訴人の本訴を却下した。しかしながら準禁治産は本人の財産保護を目的とする制度であつて、準禁治産者の行為はもとより無効ではなく準禁治産者の利益に帰する事項については有効であり、その不利益な事項は準禁治産者において取り消し得るものと解するのが正当であり右準禁治産制度の趣旨によく合致するゆえんであつて、この原則は訴訟行為についてもなんら異なるところがなく従つて控訴人が本訴を提起するに当つても保佐人の同意は勝訴判決があつたとき民事訴訟法第五四条に依り追認すれば足り、保佐人の同意がないという理由で控訴人をして訴訟行為をなさしめず敗訴判決を言渡し準禁治産者の貴重な財産を喪失させることは準禁治産制度の法規に違背し民事訴訟法第五三条第五四条の解釈適用を誤つた違法があるから原判決は到底取り消を免れない。速かに一審裁判所をして本案につき中間判決をなしめるよう差し戻す旨の判決を辻られ度いと陳述し被控訴代理人において控訴人は昭和二年十月二十四日準禁治産の宣告を受けたものであるところ、本件控訴には保佐人の同意がなく不適法であるから却下さるべきであると陳述したほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

控訴人は昭和二年十月二十四日準禁治産宣告せられ昭和三年一月六日松田長蔵がその保佐人に選任されたが新民法施行後右保佐人死亡し保佐人曠欠のまま昭和三十一年一月三十日国を相手取り不動産所有権移転登記及び損害賠償請求の本訴を提起したところ同裁判所が保佐人の同意なくして提起せられた本訴は不適法であることを理由に昭和三十二年五月三十日訴却下の判決を言渡したので控訴人が当庁に控訴提起期間内に本件控訴を提起したから、当裁判所は昭和三十二年九月三日第一回口頭弁論期日において控訴人に対し同年十月十五日の次回口頭弁論期日までに訴訟行為をなすに必要な授権の欠缺を補正すべき旨命じ更に右第二回口頭弁論期日において右補正期間を伸長猶予したのに控訴人が同年十一月二十六日の最終口頭弁論期日において控訴人勝訴の本案判決がなされたとき民事訴訟法第五四条に依り授権の欠缺を補正すれば足りるとの見解の下に右欠缺補正の措置を採る意思がない旨を表明したことが本件記録並びに当審における口頭弁論の経過に徴して明かである。

しかしながら、民事訴訟法第四五条民法第一二条第一項第四号に依れば、準禁治産者が訴訟行為をするには保佐人の同意を得ることが必要であつて、準禁治産者が保佐人の同意を得ないで訴及び控訴を提起したときその訴訟行為については民事訴訟法第五〇条の規定の趣旨及び訴訟手続の性質にかんがみて民法第一二条第三項の準用がなく、保佐人の同意は準禁治産者のする訴訟行為の有効要件であつて、右同意の欠缺ある訴訟行為は無効のものといわねばならない。従つて受訴裁判所は右授権の欠缺あるときは民事訴訟法第五三条により相当の期間を定めて右欠缺を補正すべきことを命ずると同時に急速を要する訴訟行為に限つて保佐人の同意なくして一時追行することを許すことができるけれどもこの場合でも、右欠缺の補正は遅くとも判決に接着する最終口頭弁論期日までは為さるることを要するものであつて、控訴人が当裁判所の補正命令に従わず且つ最終口頭弁論期日に至るもこれに従う意思のないことを表明するものである以上本件控訴の提起を不適法ならしめている前記同意の欠缺は適法にこれを補正することができない場合に該当するものというべきである。

よつて本件控訴を却下すべきものと認め民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大嶋京一郎 藤城虎雄 南新一)

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